第0話『プロローグ』
アタシは世界の王様になりたかった。子供の頃から。
この町の子は高校生になるまでに、妄想癖が激しくなるか、自殺願望が芽生えるか、どっちかだ。
だって雪が降るから。
雪が自分ん家の屋根の高さまで降り積もる地獄の豪雪地帯だから。
長い冬の間、外に出られないから。
だから寂しさを紛らわせるために、この町の子は、SNSやらストリーミングで、全国のみんなと繋がってみようとも、する。
なんにしろ生存戦略。この町の子たちは冬の寂しさの地獄を生き残るために、ありとあらゆる手だてをつくす。
人間というのはなんでこんなに弱っこいんでしょ。
一人では生きられないってことをさんざん思い知らされる。雪に。
それが嫌だった。アタシは子供の頃から。
アタシは一人で生きられる人間になりたい。
だからアタシは妄想する時、強いモノになりたいって思ってきた。
強い生き物になる妄想。
世界の女王様になることを夢想する日々。
誰にも頼らず、雪さえ屁でもない、最強の生物になりたい。
こういうことを考える雪の町の子、アタシだけじゃないって思うんだけど。
たぶん、アタシは相当、思いが強かったんだと思う。
アタシの妄想癖は、病的なほどだった。子供の頃から。
だからアタシは去年、願いが叶った。
去年、16歳になった12月のクリスマスに、アタシは世界の女王様になった。
このお話は、アタシの女王としての日記。
アタシがどうやって王になったのか、そして、王としてどんな毎日を送っているのかを、つづっていこうと思う。
去年の冬、女王様になって、そのあと雪がとけ、短い夏を生きて、すぐに秋がきて、また雪が降ろうとしている、今だから。
女王になって、1年が経ったから。
1年経って、アタシにも余裕ができたから。
この1年間、いろいろ多忙だった。
振り返る暇もなかった。
1年が経ち、余裕ができて、アタシのような子がまた生まれてきたときに、「参考書」になるように、日記をつづっていこうと思えるようになった。
先輩の王として。
豪雪地帯の、アタシの町のことも、生まれくる新米王に知ってほしい。
裸の王様と呼ばれようがドン・キホーテと笑われようが、アタシみたいな子が生まれたときに、困らなくてすむように、全部書きつづってあげたい。
アタシも去年、王様になった最初は途方にくれたから。
恥ずかしい話、アタシは女王になってまず、手首を切ろうとしたから。寂しすぎて。
女王になってから今日までの日々は、女王になる前の1000億倍、寂しい。という事実。
今だって死ぬほど寂しい。
だけど今はもう慣れた。この孤独に。
この物語がアタシの妄想なのか、本当の話なのかは、アタシのようになった人間だけが分かる。
アタシのようになった子だけに伝わればいいって、思ってる。
孤独で味方は自分だけな、好きな男の子も何もかも手に入らない女王様の物語、はじまりはじまり。
次回へつづく